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台風と高波・高潮

台風と高潮

高潮と潮汐

海面は月や太陽の引力によりほぼ1日に1~2回の割合で周期的に満潮と干潮を繰り返しています。そのため海面の高さ(潮位)を前もって計算(推算潮位)しておくことができます(潮位表などの名で釣具店や書店などで入手できます)。

しかし,台風に伴う風が沖から海岸に向かって吹くと,海水は海岸に吹き寄せられて「吹き寄せ効果」と呼ばれる海岸付近の海面の上昇が起こります。この場合,吹き寄せによる海面上昇は風速の2乗に比例し,風速が2倍になれば海面上昇は4倍になります。特にV字形の湾の場合は奥ほど狭まる地形が海面上昇を助長させるように働き,湾の奥ではさらに海面が高くなります。

また,台風が接近して気圧が低くなると海面が持ち上がります。これを「吸い上げ効果」といい,外洋では気圧が1hPa低いと海面は約1cm上昇するといわれています。例えばそれまで1,000hPaだったところへ中心気圧が950hPaの台風が来れば,台風の中心付近では海面は約50cm高くなり,そのまわりでも気圧に応じて海面は高くなります。

このようにして起こる海面の上昇を高潮と呼び,推算潮位との差を潮位偏差(実際の潮位=推算潮位+潮位偏差)と呼びます。

左の図は平成8年9月に関東地方を中心に大雨と暴風をもたらした台風第17号が関東の南を通過したときの八丈島の潮位の変化を示した図です。

八丈島では最大風速28.8m/sの強風が吹き続けたために,台風が最も接近した9月22日昼頃には推算潮位(図の破線)よりも283センチも高い潮位(図の実線)を観測しました。幸いこの時は小潮(上弦または下弦の月の頃で,満潮と干潮の潮位差が小さい)で,大きな高潮被害はみられませんでした。しかし、小潮であっても潮位偏差が大きければ高潮被害の発生が考えられますので、油断はできません。

確かに大潮(新月または満月の頃で,満潮時の推算潮位は最も高くなり,逆に干潮時の推算潮位は最も低くなる)の満潮時に台風の接近による高潮が重なれば,それに伴って被害が起こる可能性も高くなりますので,特に注意が必要ですが、高潮の被害は満潮時以外にも発生しています。台風の接近が満潮時と重ならないからといって安心はできません。また,9月頃は1年を通じて最も平均潮位が高くなる時期であることも台風に伴う高潮災害を考える上で見逃してはいけません。

なお,潮位は東京湾平均海面を基準面として表します。この基準面は海抜0mとも言い,山の高さなどを表す標高の基準にもなっています。

高潮と台風の進路

台風に吹き込む風は反時計回りで,ふつうは進行方向に対して右側で強くなっています。

そのため,南に開いた湾の場合は台風が西側を北上した場合には南風が吹き続け高潮が起こります。さらに暴風によって発生した高い波も沖から押し寄せますので,高潮に高波が加わって海面は一層高くなります。

実際,過去50年間に潮位偏差が1m以上となった高潮はほとんどが東京湾,伊勢湾,大阪湾,瀬戸内海,有明海の遠浅で南に開いた湾で発生しています。

台風の気圧や風の強さからどのくらいの潮位偏差となるかを予測することは可能です。推算潮位や満潮の時刻も計算されていますので,計算から求まる潮位偏差予測値と推算潮位を合算して被害が発生する可能性が判断できます。その結果は情報や高潮注意報,警報として発表します。

平成7年台風第12号は関東地方に接近して,八丈島で932hPaと非常に低い中心気圧を観測し,各地で風速30m/sを超える暴風が吹きましたが,首都圏直撃は免れ,関東地方では銚子で潮位偏差77cmを観測したにとどまりました。もし台風が関東地方を直撃していた場合,東京で2.1m,千葉市で3.3mという伊勢湾台風クラスの潮位偏差が発生していたというシミュレーション計算の結果もあります。海岸に近い所では高潮による浸水に備えて避難場所と避難経路をもう一度確認しておいてください。

台風と高波

波とは

風が吹くと水面には波が立ち,まわりへ広がります。波は風が吹いたことによってその場所に発生する「風浪(ふうろう)」と,他の場所で発生した風浪が伝播したり,あるいは風が静まった後に残された「うねり」の2つに分類されます。そして,風浪とうねりを合わせて「波浪(はろう)」と呼びます。

一般にうねりとなって伝播する波は遠くへいくにしたがって波高は低くなり,周期が長くなりながら次第に減衰しますが,高いうねりは数千キロメートルも離れた場所で観測されることもあります。

台風に伴う高波

波には,風が強いほど,長く吹き続けるほど,吹く距離が長いほど高くなるという3つの発達条件があります。台風はこの3つの条件を満たしており,例えば台風の中心付近では,10mを超える高波(有義波高*)になることがあります。しかも,風浪とうねりが交錯して複雑な様相の波になります。

また,周辺の海域では台風の移動に伴って次々と発生する波がうねりとなって伝播してくるため,いろいろな方向からうねりがやってきて重なり合います。そこで風が吹いていれば風浪が加わり,さらに複雑な波になります。

台風による海難の発生状況は台風のコースやそのときの状況で大きく異なりますが,海上保安庁の調査によれば,昭和50年から平成6年までの20年間で台風などの異常気象のもとでの要救助船舶件数は3,775隻(年平均約190隻)に達しています。例えば,昭和54(1979)年に温帯低気圧に変わりつつあった台風第20号により北海道近海で衝突9隻,転覆3隻など合計37隻が遭難し,66名の死者・行方不明者がでました。このことは,台風が温帯低気圧に変わりつつある,あるいは変わった,といっても決して油断できないことを示しています。

海岸の高潮と高波の重なり合い

南に開いた湾の場合は台風が西側を北上すると南風が吹き続けますので,特に高潮が発生しやすくなります。それに加えて暴風によって発生した高い波浪が沖から打ち寄せ,海面は一層高くなります。

一方,台風が東側を北上すると,北風となるため海岸付近では風浪は小さいものの,少し沖へ出れば風浪は高くなります。このとき,南からのうねりがあると,お互いにぶつかり合って複雑な波が発生しやすくなります。

昔から,夏から秋にかけて太平洋に面した海岸に押し寄せる高い波(うねり)を「土用波」と呼んで高波に対する注意を促していました。これは,この時期の台風が太平洋高気圧の周りを廻ってから日本に近づくので,その前にうねりの方が早く日本にやってくることを言ったものです。

台風が近づいて波が高くなってきている最中にサーフィンに出かけたり,高波を見るために海岸へ出かけたりして,高波にさらわれる事故が毎年発生しています。台風接近時には海岸を突然大波が襲うことは珍しくありません。このようなときにはむやみに海岸へ近づかないでください。

*有義波高とは
波浪予報などで使われている波高(波の高さ)は,有義波高と呼ばれる波の高さです。これは,ある点を連続的に通過する波を観測したとき,波高を高い順に並べ直して全体の1/3までの波の高さを平均した値です。目視で観測される波高はほぼ有義波高に等しいと言われており,一般に波高と言う場合には有義波高を指しています。

同じような波の状態が続くとき,100波に1波は有義波高の1.5倍,1,000波に1波は2倍近い巨大波が出現します。この巨大波のことを「一発大波」などとも言います。確率としては小さいのですが,台風によるしけが長引くほど巨大波が出現する危険性が増す(2倍の波は2時間に1波程度)わけで十分な注意が必要です。

台風が接近している時はもちろん,台風に先行してやってくる「土用波」のようなうねりに対しても同じことが言え,注意が必要です。

なお,気象庁では波の高さを説明する際には,4mから6mの波を「しけ」,6mから9mの波を「大しけ」,さらにそれ以上の高い波を「猛烈なしけ」と呼んでいます。

気象庁ホームページ、福岡県防災安全課のホームページより引用しています